一線と二線を這うのは相手の根拠を奪って攻めるため
https://gokifu.net/t2.php?s=3671576977919517
さて、この黒番は有名なプロ棋士ですが誰でしょうか?
答えは趙治勲さん。
趙さんの碁は、子供の碁は半世紀以上変わらずに一線渡りや二線をはうことをいとわずというか、相手の地を削減することを攻めに利用することが特徴だと思います。こんな棋風の人はこれまでにいなかったと思います。
彼は相手の根拠を奪って攻め上げます。
決して確定地が欲しくて二線や一線を打つのではないのです。
アマチュアが真似しようとしても真似できない強烈な個性です。
その点でいうとほんの少しだけ同世代というより先輩格の武宮九段の碁は、実にかっこよくお洒落でアマ初級者が真似をしてもそれなりに碁になるという意味で分かりやすい棋風だと思います。
武宮九段の棋譜を見ると、難しいことは一切考えずに盤上の大きく見えるところを順番にうつだけのシンプルなゲームに見えます。
もちろん、その裏には複雑な読みがあることは言うまでもありません。
なにせ、このシチョウ詰碁を十数秒で解いた程の方ですから。
中山典之先生が創作した作品をこちらにご紹介します。
私は棋譜入力するだけでも10分以上かかりましたし、何度か間違えました。
https://www.youtube.com/watch?v=aOak8j51Q6Q
趙さんの棋譜を見ていると実に美しい手筋がときどき登場します。
何をしているんだろうと なかばぼんやりと眺めているうちにだんだんわかってくるのが楽しいです。
上辺の打ち込みから投了図の上辺絞りながら一線渡りで強烈に白を攻めています。
139の一手は白に中央の地を作らせながら同時に捨て石作戦でその地を崩壊させることを狙っています。
もっとさかのぼれば40のツケに対して下を這うという選択をするでしょうか。
AIのご託宣がもてはやされる現代の囲碁では評価値が下がりそうな手を連発しているように思います(試してみたことはありませんが)。
139に戻ります。
この時点で肩つきされた黒二子を捨てて中央を黒模様にして打つことは私みたいなアマ低段者でも想起できると思います。私だったらQ13につけるかな。
皆さんだったらどうしますか?
R13というのはある程度打てる方なら最初から考えないんじゃないでしょうか。
60歳を超えた今でも半世紀前と変わらずに誰も真似できない独自の棋風で私たちを魅了し続ける趙治勲の碁にはただただ感嘆するばかりです。
趙さんは1956年(昭和31年)生まれで、私より一歳上です。
彼が5歳で日本に来た時に、当然ながら私は4歳です。
そんなに小さな子供が囲碁棋士になるために一人でやってきたというのは「天才少年が来た」といって囲碁界が大歓迎したのですが、ほぼ同世代の私は「なんてかわいそうなんだろう」と思い趙さんの活躍を祈りました。
父親が購読していた「棋道」を読むことで私はすぐに漢字を覚えました。そして、ページ単位で棋譜を「読む」こともできるようになりました。
趙さんの碁は何かのイベントで林海峰名人と打った5子局しか見たことがありませんでした。
でも、私が高校生だったころには連勝記録やタイトル奪取が新聞紙上や棋道で書かれていたので嬉しかったことを覚えています。
今私が囲碁を好きなのは趙さんを応援するためだったといっても過言ではありません。
だから囲碁を打たない大学生の頃、仕送りとアルバイトで食いつないでいた、ラーメンいっぱい250円の頃に1500円も出して趙治勲の美麗棋譜集を買って読んだりしていました。