「もう一度ネットで会いたい碁敵」

乗換案内で知られるジョルダンが運営している「読書の時間」というサイトに囲碁を主軸においた私小説をいくつか掲載したことがあります。

十年くらい前のことでして、先ほど検索してみましたが「この作品は配信終了です」という表示になっていました。

「もう一度ネットで会いたい・・・・」はガンと戦っていた碁仇との記憶です。
彼は私と同世代、五十歳代前半でした。

棋力も私と同じで、初段~二段でした。
私は当時、睡眠障害で働くことができず自宅治療中でした。
彼はガンが進行していて治る見込みはないとのことでした。
病室にノートパソコンを持ち込んで囲碁を打ちながらチャットをしていました。


たぶん50局くらい打って、勝ち負けはちょうど半々くらいだったと記憶しています。
勝ち負けよりも、チャットを楽しむほうに二人ともウエイトを置いていたので、持ち時間を長くして打っていました。
一度、スカイプボイスチャットをしたことがあります。
死期の迫った病人だから、弱弱しい声を予想していたのですが意外に張りのある若々しい声だったことを思い出しました。
彼は福島県の山側にいるということで、地元のこと、勤めていたころの思い出、少しだけ家族のことなどを聞かせてもらいました。


「碁敵は 憎さも憎し なつかしき」 勝ったり負けたりする碁敵ってなかなか得難いと思います。
彼は病室でヒマ、私は自宅治療でヒマ。
彼は病気のことはほとんど語らなかったのですがある時
「この冬が越せるかどうか・・・・でも碁を打っているとそんなことを忘れて石の生き死にだけを気にするからいいよね」
そして、ネット碁会所に来なくなり連絡が途絶えました。

 

人生の生き死にと盤上の生き死にをからめた地味な作品でしたが、割と好評でランキング上位になりました。
こんな私的なものをなんで応募して公開しようと思ったのかというとランキングに参加して目立ちたかった というのがあります。これは、否定できないです。

でもそれ以上に大きかったのは、こういうネット小説を読む(おそらくは)若い人に囲碁のことを知ってほしかったのです。

囲碁人口が増えれば、囲碁を題材にした小説やコミックが次々に出ると思いますが、今の囲碁事情では、ヒカルの碁以降、囲碁のコミックも小説も注目されていないと思います。
とてもさびしい状況です。


私のこの駄文がそんなものの代用品にもなるわけはないのですが、何かしたいという気持ちがありました。
ブログのランキングでも、囲碁・将棋は一つのカテゴリーになっていることが多く、上位に入っているのは将棋ばかりです。
世界的ブームになっている囲碁と、ジャパンローカルの将棋で、なんで囲碁のほうが下なんだ、という気持ちは今でもあります。

会話のないネット碁と異なり、チャットをしながらのネット碁はヒトとヒトの距離を近づけてくれるコミュニケーションツール。また、チャットしながらのんびりと碁を打ちたくなりました。