王メイエン九段の二冊の本
Goxiのフレンド Kさんが、メンバー向けの棋書レビューを書いていたのを読みましてこちらにも掲載させていただくことにしました。
本のレビューというのは、そのジャンルのことに詳しいアマチュアが書くものが一番面白くなおかつ、参考にもなると思っています。
もちろん、アマチュアだけに、どこの誰が書いたのかわからないようなレビューもアマゾンや楽天ブックスで見かけますが、そういうのは読み手の私たちが取捨選択することでしょう。
出版や本の販売の関係者だと、文章は小奇麗にまとまるとしても、その背後にある「売りたい」という意図が透けて見えるから、 「いい本です!!!!」とビックリマークがたくさんついても、受け手としては、減額してうけとりますよね。
その点、Goxi のレビューは、囲碁ファンしか読まないことが分かっていて、自分の好きな囲碁の本のことを紹介するんだから、商売ッ気は抜きにして、レビューのレベルは高いと思います。
Kさんが書いているけれど、梶原武雄先生と、もし序盤構想で語り合ったら、白いだろうと思います。適当なところで折り合いをつけるタイプではないですからね。
■読みの地平線(レビュー:Kさん)
王メイエンさんは、打つ碁も非常に魅力的だけど、発言もいつも面白い。
僕が特に感銘を受けているのは、読みと感覚」に関する発言で、それを分かりやすく棋力向上にもつなげようと書かれたのが、この本なのだと思います。
僕らは囲碁について、どのような局面にも常に「最善手が存在する」という前提をぼんやりと抱いていますよね。
そして、それは数学的な意味では正しいかもしれない。
だからそれを追求しよう、というのが「神の1手」主義になる。
しかし、人間の読みの能力では実際には無理。
だったら、それを前提として受け入れようじゃないの、というのが王メイエンさんのメッセージだと、僕は勝手に考えています。
「読み」の限定性を補うのが、「感覚」というわけです。
王さんの議論がややこしく(いや、面白さでもある)みえるのは、限定的にしかない「読む」という作業をどこで行うかを決めるのは「感覚」だという話だったり、「読んだ結論」を「感覚」で判断したり、と、「読み」と「感覚」を対立概念としていないことだ。
読みと感覚は、別だと思っていると、非常に分かりにくいかも。
このあたりは、「ゾーン」「プレス」の関係もそうかな。
でも、王さんの新聞解説やTV解説は、こうした本で書かれた考え方が常に背景にあることが伝わってくる。
「碁の価値観は、読みや数字だけでは測れない」という感じ?
でも、王さんの計算は非常に正確なんだよなあ。
梶原先生と徹底的に議論して欲しいなあ。
梶原先生と王メイエンさんの囲碁談義をあの世で聞きたいな。
上達には実際には役立ちにくいので、星は一つマイナスして4つ。
こちらは、私、八歩の書評。
■我間違える ゆえに我あり(レビュー:八歩)
喜劇仕立ての棋書というのは、過去になかったと思います。メイエンさんのゾーンプレスパークも笑いをとろうとしているのだが、相当すべっています。
その点、この本は、トッププロであるメイエンさんが、なぜ勝手読みをし、その結果、どんなにひどい目にあったかを喜劇にして読ませてくれます。
非常に共感性の高い、棋書の奇書だと思います。
メイエンさんの碁をより理解したいという人向けの本です。
この本を読んで、メイエンさんの棋譜を並べてみると、「わかるようになる」というと言い過ぎなんですが、少し、解が進んだような気になります。
トッププロの棋譜を並べて、理解の度合いが進んだことを実感できるって、実は、とてつもない進歩なんではないかと思います。
これを読んでおもったことなんですが、もし、著名な棋士の、「私が困り果てたこの局面」というシリーズが出たら、是非読みたいと思います。
単純なミスではなく、深い読みと、形勢判断の末の間違いというのには、人間にしかできないミスという凄み、深みがあるのだなあと思います。
「人間にしかできないミス」というのは、いい言葉だなぁと思っています。