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イ・セドル九段の引退に思うこと
「AIが登場したことで、どんなに努力してもトップになれないことが分かった。決して敗れない存在がある」と語り、囲碁のAIに勝てないことを引退の理由に挙げました。
国際的なタイトルを数多く持つイ九段は、2016年、IT大手グーグルの傘下にある企業が開発した囲碁のAI、「AlphaGo」と5番勝負の対局を行い、4敗を喫しながらも1勝を挙げましたが、これ以降、AlphaGoに勝った棋士はいません。
とのことです。
AIは囲碁を人類から奪ってしまうのでしょうか?
私の見解はNoです。
現代最強と言われるプロが引退するといっても、それはその人の考えがあり計算や打算もあるかもしれません。
ただ、この一件が「囲碁の魅力」を損なうことがないようにと願わずにはいられません。
といいますのも、AIが強くなって以来これまで着手の候補としてはまともに考えられていなかったものが着手可能性として次々にい発掘されている真っ最中なのです。
Aiによる新しい着手の発見のおかげで、囲碁の可能性がさらにひろがっているという印象を私は持っています。
呉清源九段が大ナダレの内曲がり定石なるものを見つけ出したのは1957年のことでした。最強位戦という大舞台でのことです。
当時は私はゼロ歳だから覚えていませんが、「呉清源が定石を間違えた」といって新聞紙上で騒がれたと聞きました。
私が新聞の棋譜読みにハマった1960年ころは我が家の座敷で父と同僚が大ナダレを打っていました。新聞碁でもしょっちゅう登場していました。
これは、先にアップしたブログで取り上げた棋譜です。
https://happo-jji.hatenablog.com/entry/2019/12/01/072622
二日制の碁で、十手目が封じ手。
ですから初日の夕刻、打掛となったとき盤上に石は9つしかなかったのです。
時間短縮、能率重視の現代では考えられないことですね。
特に白8がすごい。出来上がった形を見ると当時よく打たれている定石型です。しかし白8のすべりを先に打つかどうか・・・・・こういう工夫をしてこれまでになかった石の運びを探索するのが棋士の本懐でした。
でも、新手といえばこの碁の白番、梶原武雄先生でした。
呉清源先生、木谷實先生も囲碁界に多くの発見を残してくれました。
そういう方々がいて、歴史にもまれて囲碁が成長してきました。
今はAIが囲碁発展のエンジンになっていると思います。
いきなり星に対して三三に入るのはAI流だといわれています。
古来、早めに入ると相手に厚みを与えて、厚みのほうが実利に勝るというのが定説だったのですが、その定説が崩れたことで新たな盤面の見方ができるようになったのだと思います。
AIと人間が勝負したらどっちが勝つかという時代すでに終わっていて、AIがみつけてくれた新手を人間がどのように理解し、どのような局面で使用するかに興味は移ってきているように思います。
重量挙げのメダリストが、三菱の工事用重機に負けたといって重量挙げを廃業しないと思います。
人間はミスもしますし、とてつもない発見もします。
時間が切れそうななかで延々と微細なヨセを精緻に行っている姿は面白いを通り越して気高くもあります。
囲碁を、勝ち負けを決めるゲームという側面だけからではなく最後に勝敗がついてしまうコミュニケーションゲームととらえるとAIが新しいコミュニケーションテクニックを見つけてくれるのは歓迎します。
たとえを変えてみます。
恋愛はヒトはできますが、AIはできないと思います。
ただ、ターゲットをゲットするためにどのようなアプローチをすると成功確率がたかいだろうかというゲームだとしたら、相当に上手に相手の心をつかむテクニックをAIは習得するでしょうね。
だから、私とAIが同じ女性に同時にアプローチしたら、
プレゼントはどっちのほうがお気に入り? AI
僕のデートプランとAIのプラン どっちがいい? AI
AIが作った君好みのアバターと現物の僕とどっちが素敵? AI
でも、彼女がAIを選ぶ可能性はきっとゼロです。